オフィス(机、パソコン等)などのイラスト自分で事業を始めるときには、法人ではなく個人(フリーランス等)で始める方が多いかと思います。

そして個人で始めた事業が軌道に乗り売上が大きくなると気になるのは税金。業種によっては営業上の信用力を得たい場合もあるかもしれません。その時に考えるのが「法人成り」です。

「法人成り」というのは、個人の名前で行っていた事業を、会社の名前で行えるように、会社を設立して事業を会社に引き継ぐことを言いますが、法人成りのタイミングについてお悩みの方はとても多いです。

目次

この記事のポイント

  • 「売上1,000万円」または「利益600万円」を超えたら法人成りを考えましょう。
  • 「消費税の免除期間」と「社会保険の強制加入」の影響が大きいので注意しましょう。
  • 会社設立の最低費用は株式会社だと20万円、合同会社だと6万円です。

法人成りの目安

これまでに数多くの法人成りをサポートしてきた経験上「1年間の売上が1,000万円を超えた」または「1年間の利益が600万円を超えた」場合に法人成りすることで節税に繋がるケースが多いです。(製造業・建設業など売上規模の大きい業種を除く)

なぜ節税になるのかというと、次の内容があります。

  1. 事業の利益を法人税と役員報酬(=所得税)に分散することで、税率(税金を計算するときに使う率)を低くすることができる。
  2. 「自分や家族への給料」「生命保険料」「退職金」など個人事業では経費にできないものが法人では経費にできる。
  3. 消費税の納税を最大2年間行わなくてよい。

また、税金の節約の観点だけではなく「事業の信用力」という観点から法人成りをお勧めすることもあります。

一般的には個人事業主よりも法人のほうが信用力が高いため、業種によっては法人成りにより信用力を高めて事業を次のステップに進めたいときが法人成りの良いタイミングとも言えるでしょう。

法人成りのメリット

上に挙げた節税や信用力のメリット以外では次のようなメリットがあります。

  • 欠損金(=赤字)の繰越しが、個人事業は3年だが、法人は10年間できる。

欠損金の繰越制度は、前年より前に赤字の年があった場合に赤字額を今年の利益から控除できる制度です。個人事業では4年以上前の赤字は無かったことになりますが、法人では10年前の赤字まで活用し節税することができます。

  • 決算月が個人事業は必ず12月だが、法人は自由に決められる。

法人は事業の繁忙期や税金対策をしやすい時期を選んで、自社に合わせて決算月を決めることができます。

法人成りのデメリット

一方で法人成りには次のようなデメリットがあるので、注意が必要です。

社会保険に強制加入

個人事業ですと事業主を除いた従業員の数が常時5人未満であれば、社会保険(=厚生年金や協会けんぽ)への加入義務はありません。(飲食業や理美容業などの一部のサービス業では従業員が5人以上でも加入義務がない業種もあります。)

社会保険に加入するということは、従業員の社会保険料の半額を事業主が支払う必要があり、資金繰りに大きな影響を与えます。(従業員にとっては、勤務先が社会保険に加入していることはメリットですので、福利厚生や採用面を考えるとマイナスばかりではありませんが)

特に従業員が多く必要な事業ではその影響も大きくなるので、節税メリットと比較して慎重に判断することが大切です。

会社をつくるための費用が必要

個人事業をスタートするときには費用はかかりませんので、税務関係の届出を数枚提出すれば済んでしまいます。しかし、法人として事業をスタートするには費用がかかります。
具体的には印紙税や免許税ですが、これは自分で手続きをしても支払わなければいけない費用で、株式会社を設立する場合には約20万円、合同会社を設立する場合には約6万円が必要です。また、設立手続きを専門家に代行する場合には一般的には10万円前後の報酬が必要です。(会社の登記は「司法書士」、税務手続きは「税理士」、社会保険手続きは「社会保険労務士」が担当します。)

私は税理士ですので税務面でいうと、やはり個人と法人での大きな違いは「確定申告を自分でできる・できるない」という点です。個人事業の確定申告書は会計資料を集計して5枚~7枚の書類を提出すればいいので時間があれば事業主自身でも十分できます。しかし、法人の確定申告は20枚~40枚もの書類を提出しますので、そのページ数だけをみても事業主(社長)が自分で作成することは難しいのが分かるかと思います。さらに書類の内容も「別表」「益金」「損金」「納税充当金」など、普段使わない単語が多く出てくるので、ほとんどの方が税理士に依頼することになり、確定申告報酬などの費用が必要になります。

会社設立の費用についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。

会社設立にかかる費用は?

消費税の免税期間をフル活用できないかも

開業して事業が急成長したり、もともと事業規模が大きい業種(製造業・建設業など)では、初年度から売上が数千万円になることもあります。こんな場合に「売上×××万円以上は法人のほうが節税できる!」などとネット上で見て法人成りを考える事業主の方もいるかもしれませんが、開業2年以内の法人成りは要注意です。

要注意の理由は、一般的に個人事業でも法人でも開業(創業)から2年間は消費税の支払いが免除されるため(※1)、個人事業開業から2年後に法人成りすることで最長4年間も消費税支払いが免除になりますが、開業後2年以内に法人成りするとその分免除される期間が減ってしまうからです。

※1 半期で売上額と給与支払額がどちらも1千万超となる場合には、開業後から「1年間」の免税になります。

消費税は事業が好調であるほど、支払額が大きくなりやすいので節税目的で法人成りをして所得税や住民税は減ったけど、消費税の支払いが当初より前倒しになり、結果的に税金負担が大きくなってしまっては目もあてられません。この点は慎重な判断が必要です。

その他のデメリット

その他にも法人にすることで次のようなデメリットがあります。

  • 赤字でも法人住民税の均等割(7万円)の税金支払いが必要になる。(年1回)

個人事業では事業が赤字であれば所得税や住民税を支払う必要はありませんが、法人の場合には「法人住民税」という、基本料金のような税金を払わなければいけません。(東京都では、資本金が1千万以下の法人は7万円、資本金1千万超の法人は18万円です。)

  • 廃業時にも会社をたたむ費用がかかる。

法人が事業をやめるときには「解散・清算」という手続きが必要で設立時と同様に税金や登記費用、専門家手続報酬が必要です。(一時的に事業を停止するだけであれば「休眠」という簡易な手続きもあります。)

おわりに

個人で始めた事業が順調に伸びてくると所得税・住民税の支払額にビックリしますよね。インターネットでは「法人化して節税しましょう!」と書かれた記事も多いですし。
「こんなはずじゃなかった!」とならないように、税金だけ見るとメリット(節税)になっても、社会保険の強制加入や消費税の免税期間など法人成りのデメリットも合わせて総合的に検討したうえで法人成りの時期を判断することが大切です。